企業の情報発信コンテンツに潜むリスクの見つけ方とチェックポイント
はじめに
企業の情報発信において、SNS投稿、Webサイトのブログ記事、広告クリエイティブなど、多岐にわたるコンテンツが日々生み出されています。これらのコンテンツは企業のメッセージを伝え、ブランドイメージを構築する重要な役割を担いますが、同時に様々なリスクを内包している可能性があります。意図しない表現や、権利侵害、不正確な情報などが原因で、炎上や信頼失墜といった深刻なトラブルに発展するケースも少なくありません。
企業の広報・マーケティング担当者の皆様は、コンテンツ自体に潜むリスクを事前に発見し、適切に対策を講じることが求められています。本記事では、情報発信コンテンツに潜む具体的なリスクの種類を解説し、それらを見つけ出し回避するための実践的なチェックポイントをご紹介します。
情報発信コンテンツに潜む主なリスクの種類
コンテンツに潜むリスクは多岐にわたりますが、企業の情報発信において特に注意が必要なものとして、以下の種類が挙げられます。
- 権利侵害のリスク:
- 著作権侵害(他者の文章、画像、音楽、動画などを無断で使用)
- 肖像権・プライバシー権侵害(個人や特定の人物が特定できる形で無断掲載)
- 商標権侵害(他社の登録商標を不正に使用)
- 情報の正確性・適切性のリスク:
- 不正確な情報、事実と異なる情報の掲載(誤情報・デマ)
- 誇張表現や断定的な表現による誤解の招致
- 景品表示法等に抵触する不当表示(虚偽・誇大広告など)
- ステルスマーケティングと判断される可能性のあるPR表記の不明確さ
- 倫理的・社会的なリスク:
- 差別的、攻撃的、公序良俗に反する表現
- 特定の個人、団体、文化に対する配慮に欠ける表現
- 時代背景や社会情勢にそぐわない、不適切な表現
- 他社や競合製品・サービスに対する誹謗中傷、不正確な比較
- 情報漏洩のリスク:
- 企業秘密や未公開情報の意図しない掲載
- 個人情報や顧客情報の写り込み、掲載
- 機密性の高いファイルやURLへの誤ったリンク
これらのリスクは単独で発生することもあれば、複合的に影響し合うこともあります。重要なのは、これらのリスクがどのような形でコンテンツに現れる可能性があるかを事前に想定しておくことです。
リスクを見つけ出すための具体的なチェックポイント
情報発信コンテンツにおけるリスクを可能な限り回避するためには、制作プロセスにおいて体系的なチェックを行うことが不可欠です。以下に、主要なリスク種類ごとの具体的なチェックポイントを示します。
1. 権利侵害に関するチェックポイント
- 利用している全ての素材(テキスト、画像、動画、音楽、フォント等)の権利帰属を確認していますか?
- 自社で作成した素材であるか、外部から入手した素材であるかを明確にします。
- 外部から入手した素材の場合、その利用規約やライセンス範囲を確認し、今回の用途での利用が許諾されていますか?
- フリー素材であっても、商用利用可否、クレジット表記の必要性などの条件を確認します。
- 契約に基づき提供された素材の場合、契約範囲外の利用になっていないかを確認します。
- 人物が写り込んでいる場合、本人の許諾(肖像権)は得られていますか?
- 特に個人の特定が可能な場合、事前の許諾取得が原則です。イベント等の集合写真でも、写り込みの範囲や利用目的によっては配慮が必要です。
- 個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)が特定できる情報が含まれていませんか?含まれる場合は本人の同意を得ていますか?
- 背景の看板やPC画面の写り込みなど、意図しない情報漏洩のリスクがないか確認します。
- 他社の商標やロゴが無断で使用されていませんか?
- 固有名詞の使用が商標権侵害にあたる可能性があるため、確認が必要です。
2. 情報の正確性・適切性に関するチェックポイント
- 掲載されている情報は、客観的な事実に基づいていますか?情報源は明確ですか?
- データや統計を引用する場合、最新の情報であり、出典を明記することが推奨されます。
- 商品・サービスに関する効果・性能の記述に、過度な誇張や断定的な表現はありませんか?
- 薬機法や景品表示法など、関連法規に抵触する表現がないかを確認します。
- 「個人の感想です」といった免責事項の表示が適切に行われていますか?(特に体験談など)
- 誤認防止のための表示が求められる場合があります。
- タイアップコンテンツや広告企画である場合、それが明確に伝わる表記(#PR, #広告など)を行っていますか?
- ステルスマーケティングと疑われないよう、広告・宣伝であることが明確に分かるように表示します。
- 他社との比較を行う場合、その比較が客観的な事実に基づき、誤解を招かない表現になっていますか?
- 誹謗中傷と受け取られる可能性のある表現は避ける必要があります。
3. 倫理的・社会的なリスクに関するチェックポイント
- 特定の属性(人種、性別、宗教、障がい、職業など)に対する差別や偏見を助長する表現はありませんか?
- 社内ガイドラインや倫理規定に照らし合わせ、複数の目でチェックすることが有効です。
- 公序良俗に反する、または不快感を与える可能性のある表現はありませんか?
- 過激な表現、暴力的な表現、性的な表現などが含まれていないか確認します。
- 社会情勢や特定の出来事に関連して、配慮に欠ける、不謹慎と受け取られる可能性のある表現はありませんか?
- 時事問題や災害などに対する言及は、特に慎重な表現が求められます。
- 過去の炎上事例や社会的な批判を集めた表現を参考に、同様のリスクがないか照合していますか?
- 炎上事例から学び、リスク感度を高めることが重要です。
リスク発見のための体制構築
属人的なチェックだけではリスクの見落としが発生しやすくなります。組織として、リスク発見のための体制を構築することが推奨されます。
- 複数人によるチェック体制の導入: コンテンツ公開前に、担当者だけでなく、上司、同僚、あるいは法務部門や広報部門など、複数の関係者によるクロスチェックを行います。異なる視点からの確認は、リスクの見落としを防ぐために有効です。
- チェックリストの活用: 上記のようなチェックポイントを網羅したチェックリストを作成し、公開前の最終確認で活用します。チェックリストは定期的に見直し、最新のリスク傾向や法規制に対応させることが重要です。
- 第三者視点の導入: 可能であれば、コンテンツ制作に関わっていない第三者や、外部の専門家(弁護士、コンサルタントなど)にレビューを依頼することも検討します。社内では気づきにくいリスクを発見できる可能性があります。
- 表現ガイドラインの整備と共有: 企業として避けるべき表現や、推奨される表現スタイルなどをまとめたガイドラインを策定し、コンテンツ制作に関わる全ての関係者(社員だけでなく、外部委託先も含む)に共有します。
万が一リスクが顕在化した場合の初動対応
どんなに注意深くチェックを行っても、リスクを完全にゼロにすることは困難です。万が一、情報発信したコンテンツに問題が発見された場合、迅速かつ適切な初動対応が被害の拡大を防ぐために重要です。
問題が発見されたら、まずは速やかに該当コンテンツの公開停止・削除を検討します。その上で、事実関係を確認し、必要に応じて訂正、謝罪、再発防止策の公表などの対応を行います。どのような事態においても冷静に対応できるよう、緊急時の連絡体制や対応フローを事前に定めておくことが望ましいでしょう。具体的な緊急時対応については、別の記事で詳しく解説します。
まとめ
企業の情報発信におけるコンテンツリスクの管理は、単なるコンプライアンス遵守にとどまらず、企業の信頼性やブランドイメージを維持・向上させるために不可欠な取り組みです。本記事でご紹介したチェックポイントや体制構築の考え方を参考に、自社の情報発信におけるリスク対策を強化してください。
継続的な学習と、組織全体でのリスク意識の向上が、安全な情報発信活動を支える基盤となります。