企業のデジタルタトゥーリスク:過去の情報発信が引き起こすトラブルと対策
企業のデジタルタトゥーリスク:過去の情報発信が引き起こすトラブルと対策
インターネット上に一度公開された情報は、完全に削除することが難しく、予期せぬ形で過去の情報が掘り起こされ、現在の炎上リスクとなることがあります。これは、個人のみならず、企業の公式アカウントやウェブサイトにおける情報発信にも当てはまり、「企業のデジタルタトゥー」とも呼ばれています。
特に企業の広報やマーケティングを担当される皆様にとって、過去の情報資産は財産であると同時に、潜在的なリスク源となり得ます。ここでは、企業のデジタルタトゥーがなぜリスクとなるのか、そして具体的な対策について解説します。
過去の情報発信がリスクとなる背景
企業の過去の情報発信が、数年後、あるいは数十年後に問題となるケースが増えています。その背景には、主に以下の要因があります。
- SNS等での拡散: 過去の投稿や記事が、現在の文脈とは異なる形で切り取られ、SNS上で拡散されることがあります。
- インターネットアーカイブ: ウェブサイトの情報がウェブアーカイブサービスに記録され、削除後も閲覧可能になっている場合があります。
- 検索エンジンのキャッシュ: 検索エンジンのキャッシュ機能により、削除したページの一部情報が一時的に表示されることがあります。
- 悪意のある掘り起こし: 特定の意図を持って、過去の企業の不適切な情報発信を探し出し、拡散させるケースも存在します。
- 社会規範や価値観の変化: 過去には問題視されなかった表現や考え方が、時代の変化とともに不適切と見なされるようになることがあります。
これらの要因により、意図せず過去の情報が「蒸し返され」、現在の企業イメージを損なったり、炎上を引き起こしたりするリスクが生じます。
どのような過去の情報がリスクになりやすいか
特にリスクとなりやすい過去の情報発信には、以下のようなものがあります。
- 時代錯誤、あるいは現在の社会規範や価値観と乖離した表現: 性別、人種、文化、特定のマイノリティに対する配慮に欠ける表現など。
- 特定の団体や個人を不必要に刺激する内容: 過去の競合他社への強い批判、特定の政治的・宗教的スタンスを示すものなど。
- 不用意な発言や軽率な表現: 企業の公式な見解とは異なる、担当者の個人的な感情や誤解を招く可能性のある表現。
- 個人情報や機密情報の一部漏洩: 担当者の不注意により、社内情報や顧客情報の一部が映り込んだ画像、記載された文書など。
- 著作権や肖像権を侵害している可能性のあるコンテンツ: 許諾を得ずに使用した画像、音楽、動画など。
- 事実と異なる情報、あるいは古い情報: 当時の認識では正しかったが、その後の調査や事実判明により間違いであったことが分かった情報。
これらの情報は、現在の企業の姿勢やブランドイメージと矛盾する場合、大きな批判の対象となる可能性があります。
企業のデジタルタトゥーリスクへの対策
企業のデジタルタトゥーリスクを管理するためには、事前の対策と継続的なチェックが不可欠です。
1. 過去のコンテンツ棚卸しとチェック体制の構築
保有する過去の情報資産を洗い出し、リスクがないかチェックする体制を構築します。
- 対象範囲の特定: ウェブサイト、ブログ、各種SNSアカウント、過去のプレスリリース、動画チャンネルなど、企業が公式に発信した全てのチャネル・コンテンツをリストアップします。
- チェック観点の設定: 上記「リスクになりやすい情報」の項目を参考に、チェックリストを作成します。
- チェック担当者の明確化: 誰がどの範囲を、どのような頻度でチェックするかを定めます。必要に応じて、複数名でのダブルチェック体制や、外部専門家の活用も検討します。
- チェック結果に基づく対応: リスクの高いコンテンツが見つかった場合、非公開化、削除、修正、あるいは注意書きの追記などの対応を検討します。削除が技術的に困難な場合は、リスクを認識し、説明責任を果たせるよう準備しておきます。
2. アーカイブポリシーの策定
ウェブサイトやSNS投稿などの情報について、アーカイブ(保存・公開)に関するポリシーを策定します。
- 公開範囲・期間の検討: 過去の情報について、どこまで一般に公開し続けるかを検討します。例えば、一定期間を経過したニュースリリースはアーカイブ専用ページに移す、キャンペーン終了後の特設サイトは閉鎖するなどです。
- 削除基準の設定: 問題が発生した場合、あるいは定期チェックで見つかった場合に、どのような基準でコンテンツを削除するかを定めます。
- ウェブアーカイブ対策: ウェブアーカイブサービスに記録された情報の削除を依頼することも可能ですが、全てのアーカイブから完全に削除することは困難な場合が多いです。削除依頼の手順や注意点を確認しておくとともに、アーカイブされても問題ない情報公開を心がけることが重要です。
3. 新規コンテンツ作成時のリスク評価強化
将来のデジタルタトゥーとならないよう、現在進行形で行う情報発信におけるリスク評価を強化します。
- リスクチェックリストの更新: 過去の炎上事例や社会の変化を踏まえ、コンテンツ作成時のリスクチェックリストを常に最新の状態に保ちます。
- 表現ガイドラインの整備: 差別や偏見につながる表現、特定の価値観を傷つける表現などを避けるための具体的な表現ガイドラインを策定し、周知徹底します。
- 承認プロセスの厳格化: 特にリスクの高いコンテンツ(社会問題に触れるもの、過去の事例を引用するものなど)については、関係部署や複数担当者による厳格な承認プロセスを経るようにします。
4. 検索エンジン対策と技術的対応
リスクのある情報が見つかった場合、検索結果からの露出を減らすための技術的な対策も有効です。
- 削除済みページの処理: 削除したページについては、検索エンジンに削除されたことを伝えるための適切なHTTPステータスコード(例: 404エラーや410エラー)を返すように設定します。
- 検索エンジンへの削除依頼: 削除したページが検索エンジンのキャッシュに残っている場合、各検索エンジンにキャッシュの削除を依頼します。
- 風評被害対策サービス: 悪質なデマや誹謗中傷などが拡散している場合は、専門の対策サービスに相談することも検討します。
5. 従業員へのリテラシー教育
従業員一人ひとりが企業の代表であるという意識を持ち、デジタルタトゥーのリスクを理解することが重要です。
- 社内ガイドラインの周知: 企業の公式アカウントに関するガイドラインに加え、個人的なSNS利用が企業のデジタルタトゥーに繋がる可能性についても教育します。
- 情報ソースの確認徹底: 安易に不確かな情報や、過去の炎上した情報を引用・拡散しないよう指導します。
まとめ
企業のデジタルタトゥーリスクは、インターネット上に情報が蓄積される限り、常に存在するリスクです。過去の情報資産を適切に管理し、現在の情報発信においても将来のリスクを意識した運用を心がけることが重要です。
今回ご紹介した対策は、一度行えば完了するものではなく、継続的に見直し、改善していく必要があります。社会や技術の変化に常に対応し、企業の信頼性を守るための情報発信リスク管理体制を維持していくことが、企業の広報・マーケティング活動において不可欠と言えるでしょう。