企業の情報発信における個人情報・プライバシー侵害リスクと対策
企業が情報発信を行う際、意図せず個人情報やプライバシーを侵害してしまうリスクが存在します。これは、企業の信用失墜に繋がるだけでなく、個人情報保護法などの法令違反にも抵触する可能性がある重要なリスクです。本記事では、企業の情報発信に伴う個人情報・プライバシー侵害のリスク要因と、それを回避するための具体的な対策について解説します。
情報発信における個人情報・プライバシー侵害リスクの具体例
企業の情報発信活動は多岐にわたりますが、特に以下のような場面で個人情報やプライバシー侵害のリスクが高まります。
- ウェブサイトやブログでの事例紹介: 顧客の声や導入事例を紹介する際に、本人の許諾なく顔写真や特定の個人が識別できる情報を掲載してしまうケースです。匿名化が不十分な場合もリスクとなります。
- SNS投稿:
- イベント写真やオフィス風景写真に、意図せず従業員や来訪者の顔、個人情報が写り込んでしまう。
- キャンペーンなどでユーザーから投稿されたコンテンツ(UGC: User Generated Content)に個人情報が含まれているが、適切な処理をせずそのまま使用・掲載してしまう。
- 特定の個人に関する情報を、本人の同意なく投稿してしまう。
- プレスリリース: 関係者の氏名や役職を掲載する際に、公開範囲や同意に関する配慮が不足しているケースです。
- ライブ配信・ウェビナー: 参加者や登壇者の情報(氏名、アカウント名、映像、音声)が意図せず広く公開されてしまうリスクがあります。チャット機能での個人情報入力にも注意が必要です。
- その他: アンケート結果の公開、従業員紹介、社内報のウェブ公開など、様々な場面で個人情報やプライバシーに関する配慮が求められます。
リスク回避のための具体的な対策
これらのリスクを回避するためには、情報発信に関わる全てのプロセスにおいて、個人情報およびプライバシー保護の観点を取り入れることが不可欠です。
コンテンツ作成・確認時のチェック体制
コンテンツ作成担当者および承認者は、以下の点を意識したチェックを行う必要があります。
- 個人情報特定: 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、顔写真、声、生年月日など、特定の個人を識別できる情報が含まれていないか確認します。氏名と紐づく所属や役職なども含めて検討が必要です。
- 本人の同意取得: 個人情報を含む情報を掲載する場合、必ず事前に本人から明確な同意を得る必要があります。特に肖像権に関わる顔写真や動画の掲載については、使用目的、期間、範囲を明確に伝え、書面や電子的な記録に残る形で同意を取得することが望ましいです。未成年者の場合は保護者の同意が必要です。
- 匿名化・仮名化の徹底: 事例紹介などで個人を特定されたくない場合は、氏名を仮名にする、顔写真を加工する、特定の背景情報を削除するなど、匿名化・仮名化を適切に行います。匿名化しても他の情報と容易に照合できる場合は不十分となる可能性があるため注意が必要です。
- 非公開情報の写り込み防止: 写真や動画を撮影する際、PC画面に表示された顧客情報、会議室のホワイトボードに書かれた機密情報、社員証などが写り込まないよう十分に配慮します。
- 公開範囲の確認: 誰に対して、どの範囲まで情報を公開するのかを明確にし、それに応じた内容であるか確認します。
UGC(User Generated Content)管理における留意点
ユーザーからの投稿を企業のコンテンツとして活用する場合、特に慎重な対応が求められます。
- 利用規約の整備: UGCの利用に関する同意を明確に取得するため、応募規約や利用規約に、著作権の帰属、利用許諾の範囲、個人情報の取り扱いについて明記します。
- 投稿内容の確認: 投稿されたコンテンツに個人情報やプライバシーに関わる内容が含まれていないか、利用規約に反する内容がないかなどを確認するモニタリング体制を構築します。
- 利用許諾と処理: UGCを利用する場合、投稿規約に基づく利用許諾がある場合でも、個別に利用の許諾を得たり、プライバシーに関わる部分を削除・加工したりといった対応を検討します。
社内体制の構築と従業員教育
情報発信リスクは、担当部署だけでなく、全ての従業員に関わる問題です。
- プライバシーポリシーの整備と周知: 企業として個人情報をどのように取得し、利用し、管理するかを定めたプライバシーポリシーを策定し、ウェブサイト等で公開するとともに、従業員にも周知徹底します。
- 情報公開承認プロセスへの組み込み: 作成されたコンテンツが公開される前に、プライバシーや個人情報保護の観点から問題がないかを確認する承認プロセスを設けます。法務部門や個人情報保護担当者などがチェックフローに関与することも有効です。
- 従業員向け教育: 全従業員に対し、個人情報保護法や企業のプライバシーポリシーに関する基本的な知識、情報発信におけるプライバシー配慮の重要性などについて定期的な教育を行います。特に、写真・動画撮影時の注意点、SNSでの個人情報の扱いのリスクなどを具体的に伝えます。
侵害発生時の対応フロー
万が一、個人情報やプライバシー侵害が発生してしまった場合の対応フローを事前に準備しておきます。
- 即時削除・修正: 侵害が確認された場合、速やかに該当の情報発信(投稿、記事、画像など)を削除または修正します。
- 原因究明と影響範囲特定: 何が原因で、どの範囲の個人情報が、どの程度の期間、誰に公開されたのかを詳細に調査します。
- 関係者への連絡: 被害を受けた可能性のある本人に、速やかに連絡を取り、事実を説明し謝罪します。
- 監督官庁への報告等: 個人情報保護法に定められた「漏えい等が発生した場合の対応等」(個人情報保護法第26条等)に基づき、個人情報保護委員会への報告や本人への通知が必要となる場合があります。
- 再発防止策の策定・実行: 同様の事態が二度と発生しないよう、原因に基づいてチェック体制の見直しや従業員教育の強化などの再発防止策を策定し、実行します。
まとめ
企業の情報発信は、多くの人々に情報を届ける強力な手段である一方で、個人情報やプライバシー侵害という深刻なリスクと常に隣り合わせです。これらのリスクを未然に防ぐためには、情報発信に関わる全ての関係者が個人情報保護とプライバシー配慮の重要性を認識し、コンテンツ作成時の丁寧なチェック、UGCの適切な管理、そして組織全体の体制整備と従業員教育を継続的に行うことが不可欠です。万が一の事態に備え、対応フローを事前に準備しておくことも、リスク管理において極めて重要になります。