情報発信リスク回避ガイド

企業の情報発信における画像・動画コンテンツのリスク対策:著作権、肖像権、不適切表現の見つけ方

Tags: 情報発信リスク, コンテンツマーケティング, 著作権, 肖像権, 炎上対策, リスクマネジメント, 画像動画

はじめに

企業のSNSアカウントやウェブサイト、広告などで画像や動画コンテンツを活用する機会は年々増加しています。視覚的に訴求力の高い画像や動画は、情報の伝達効率を高め、ブランドイメージの向上に大きく貢献する一方で、テキスト情報とは異なる特有のリスクを内包しています。

著作権、肖像権、商標権といった権利侵害のリスクはもちろんのこと、意図しない写り込みや、文化・倫理的に不適切と受け取られかねない表現、誤解を招く情報の視覚化など、そのリスクの種類は多岐にわたります。これらのリスクを見落としたままコンテンツを公開してしまうと、法的な問題に発展したり、企業の信頼性を大きく損なう炎上を引き起こしたりする可能性があります。

企業の広報・マーケティング担当者様にとって、画像・動画コンテンツに潜むリスクを正しく理解し、公開前に徹底したチェックを行うことは、情報発信活動における重要な責務と言えます。本記事では、画像・動画コンテンツに潜む主なリスクの種類と、それらを回避するための具体的な対策、確認すべきチェックポイントについて解説します。

画像・動画コンテンツに潜む主なリスク

画像や動画を情報発信する際に注意すべきリスクは、大きく分けて以下の種類が考えられます。

  1. 権利侵害リスク:

    • 著作権: 他者が著作権を持つ写真、イラスト、図、映像、音楽(BGM)、フォントなどを権利者の許諾なく使用すること。フリー素材であっても、利用規約の範囲を超えた使用は著作権侵害にあたる可能性があります。
    • 肖像権・パブリシティ権: 特定の個人が特定できる形で写っている画像や動画を、その個人の許諾なく公開すること。特に著名人の場合はパブリシティ権も考慮が必要です。
    • 商標権: 他社のロゴやブランド名などが写り込んでいる場合、それが商標権侵害と判断される可能性があります。
    • 意匠権・特許権: 他社のデザイン(意匠)や技術(特許)が明確に識別できる形で写り込み、権利侵害と判断される場合。
  2. 不適切表現・倫理的リスク:

    • 差別的・攻撃的な表現: 特定の属性を持つ人々を不当に扱ったり、攻撃したりする意図のある、またはそう受け取られかねない表現が含まれている場合。
    • 暴力的・性的表現: 公序良俗に反する、過度に暴力的または性的な表現が含まれている場合。
    • 誤情報・不正確な情報: 図やグラフのデータが誤っている、古い情報に基づいている、あるいは意図的に情報を操作しているなど、コンテンツの内容が事実と異なる場合。
    • ステルスマーケティング: 広告であることを隠して商品やサービスを紹介していると疑われる表現。
    • 誇大広告・不当表示: 景品表示法などに抵触するような、事実に基づかない過度な効果効能の表示や有利誤認を招く表現。
  3. プライバシー侵害・写り込みリスク:

    • 個人情報の写り込み: 氏名、住所、電話番号、顔写真、車のナンバープレートなど、特定の個人を識別できる情報が無断で写り込んでいる場合。
    • 機密情報・社内情報の写り込み: 開発中の製品、社外秘の書類、PC画面の内容など、公開すべきでない情報が写り込んでいる場合。
    • 競合他社製品・ロゴの写り込み: 意図せず競合他社の製品やロゴが目立つ形で写り込んでいる場合、誤解を招く可能性があります。
    • 背景の不適切な要素の写り込み: ポスター、看板、街中の人物、建物などが意図せず写り込み、問題となる場合。

リスクを回避するための具体的な対策とチェックポイント

これらのリスクを未然に防ぐためには、コンテンツ制作・公開プロセス全体で以下のチェックポイントを確認することが重要です。

  1. 使用する素材の権利確認を徹底する:

    • 自社で撮影・制作した素材: 撮影対象(人物、建物、物品など)の許諾を適切に取得しているか確認します。特に人物が含まれる場合は、利用目的や期間を明記した肖像権同意書を取得することを推奨します。
    • 外部から購入・ダウンロードした素材: 写真、イラスト、BGM、動画素材などの購入サイトやフリー素材サイトの利用規約を必ず確認します。商用利用が可能か、加工・編集の可否、クレジット表示の義務、使用期間などの条件を厳守してください。不明な点は提供元に問い合わせます。
    • 既存の社内素材: 過去に制作されたコンテンツから素材を流用する場合も、元の素材の利用条件や許諾範囲を再確認します。
  2. 写り込みリスクをチェック・回避する:

    • 撮影・編集段階での確認: 撮影現場の背景や、人物が持っている物、PC画面などに個人情報、機密情報、競合製品、不適切な要素などが写り込んでいないかを慎重に確認します。
    • 編集による対応: 問題となる写り込みがある場合は、トリミング、モザイク処理、ぼかし処理などで対応します。安易な隠蔽は不信感を招くこともあるため、写り込み自体が発生しないように配慮することが最も重要です。
    • 意図しない人物の写り込み: イベント風景など、多くの人が写る状況でも、特定の個人が鮮明に写り込んでいる場合は肖像権の侵害にあたる可能性があります。許諾が得られない場合は、顔にモザイク処理を施すなどの配慮が必要です。
  3. コンテンツ内容の適切性を複数人で確認する:

    • 社内ガイドラインとの照合: 表現の基準を定めた社内ガイドライン(表現規制、倫理規定など)に基づき、不適切と思われる要素がないかチェックリストを用いて確認します。
    • ターゲット層と社会情勢への配慮: ターゲットとする読者層がどのように受け止めるかを考慮し、炎上を招きやすい表現や、社会情勢に照らして配慮が必要なテーマに触れていないか確認します。差別的、暴力的な表現はもちろんのこと、特定の属性をステレオタイプ化するような表現も避けるべきです。
    • 情報の正確性の確認: 画像や動画内で使用されるテロップ、ナレーション、グラフなどの情報が正確であるか、事実と異なる情報や誤解を招く表現がないか、必ず裏付けを取ります。
  4. 制作・承認フローを整備する:

    • 複数人によるチェック体制: コンテンツの公開前に、制作担当者だけでなく、広報、法務、関連部署など、複数の担当者がチェックする体制を構築します。それぞれの専門的な視点からリスクを洗い出すことが可能です。
    • 最終承認者の明確化: コンテンツの最終的な公開責任者を明確にし、最終チェックを通過したコンテンツのみが公開されるようにします。
    • 外部委託の場合の責任範囲明確化: 外部の制作会社に画像・動画制作を委託する場合は、著作権の帰属、肖像権許諾の取得義務、検品基準、問題発生時の責任範囲などを契約書で明確に定めます。
  5. 従業員への継続的な教育を実施する:

    • コンテンツ制作に関わる従業員に対し、著作権、肖像権、プライバシー、情報公開における倫理観などに関する基本的な知識や、社内ルールを周知・教育します。リスク感度を高めることが、問題発生の抑止に繋がります。

まとめ

企業の情報発信における画像・動画コンテンツは、その強力な訴求力ゆえに、潜在的なリスクを多く含んでいます。これらのリスクを見落とすことは、企業の信用失墜や法的な問題に直結する可能性があります。

著作権や肖像権といった権利侵害リスクに加え、写り込みや不適切な表現など、多角的な視点からのチェックが不可欠です。本記事で挙げたチェックポイントや対策は、リスク管理体制を構築・強化するための一助となるはずです。

画像・動画コンテンツのリスク管理は一度行えば十分というものではなく、法改正や社会情勢の変化に対応した継続的な見直しが必要です。常に最新のリスク情報を収集し、社内体制やチェックフローを改善していくことが、安全な情報発信活動の基盤となります。広報・マーケティング担当者の皆様には、これらの点に留意し、リスクを最小限に抑えながら効果的な情報発信を実現していただければ幸いです。