情報発信リスク回避ガイド

企業の情報発信リスク：誤った情報・フェイクニュース対策としてのファクトチェック徹底

はじめに

現代社会は情報過多の時代であり、インターネット上には玉石混交さまざまな情報が溢れています。企業が情報発信を行う際、その内容の正確性や信頼性は、ブランドイメージや顧客からの信用に直結する極めて重要な要素です。誤った情報や確認不十分な情報を発信してしまった場合、炎上や信用失墜といった深刻な事態を招くリスクがあります。

特に近年、「フェイクニュース」と呼ばれる意図的に虚偽または不正確な情報が拡散される問題が深刻化しており、企業が発信する情報もその影響から無縁ではありません。本記事では、企業の情報発信における誤情報リスクに焦点を当て、その対策としてファクトチェックを徹底することの重要性と具体的な実践方法について解説します。

企業の情報発信における誤情報リスク

企業の情報発信において発生しうる誤情報リスクには、様々な形態があります。

• 統計データや調査結果の誤解・誤用: 引用元のデータや調査手法を正確に理解せず、都合の良い部分だけを切り取ったり、誤った解釈に基づいて情報を発信したりするケースです。
• 専門外の分野に関する不正確な情報の拡散: 自社の専門領域以外の分野について言及する際、十分な裏付けを取らずに一般的な知識や伝聞に基づいた情報を発信してしまうケースです。
• 古い情報や状況の変化に対応していない情報の使用: 過去の情報やデータが最新の状態と異なっているにも関わらず、そのまま使用してしまうケースです。法規制の変更や市場動向の変化などが含まれます。
• 不確かな情報ソースやデマの引用: 信頼性の低いWebサイト、未確認のSNS投稿、匿名情報などを安易に情報ソースとして使用し、デマを拡散してしまうケースです。
• 従業員の個人的見解と企業の見解の混同: 従業員が個人的なSNSアカウント等で発信した不確かな情報が、企業の公式見解として誤解されて伝播するリスクも含まれます。

これらの誤情報が一度インターネット上に公開されると、瞬く間に拡散され、企業の公式な訂正や謝罪をもってしても完全に払拭することが困難になる場合があります。

なぜファクトチェックが重要なのか

ファクトチェックとは、情報の内容が事実に基づいているかを確認する作業です。企業の情報発信においてファクトチェックを徹底することには、以下のような重要な意義があります。

• 信頼性の維持・向上: 正確な情報を発信し続けることで、企業への信頼が高まります。これは、顧客だけでなく、取引先や従業員からの信用獲得にも繋がります。
• 炎上リスクの低減: 不正確な情報の発信は、批判や指摘、誤解を招き、炎上の大きな原因となります。ファクトチェックは、このようなリスクを未然に防ぐための最も基本的な対策の一つです。
• 法的リスクの回避: 事実と異なる情報を発信した結果、景品表示法違反、名誉毀損、不正競争防止法違反など、法的な問題に発展する可能性があります。ファクトチェックは、こうした法的リスクを回避するためにも不可欠です。
• ブランドイメージの保護: 誤情報の拡散は、企業のブランドイメージを著しく損なう可能性があります。ファクトチェックは、ブランド価値を守るための防衛線となります。

実践的なファクトチェックの手順

企業の情報発信担当者が行うべき具体的なファクトチェックの手順は以下の通りです。

1. 情報ソースの確認:

   • その情報の出所はどこか？ 公式発表、信頼できる研究機関、大手メディア、専門家の意見など、一次情報や信頼性の高いソースであることを確認します。
   • 匿名情報や伝聞、出典不明の情報は基本的に信用せず、使用を避けるべきです。
   • Webサイトの場合、運営者情報（会社名、連絡先など）が明確か、最終更新日はいつかなども確認のポイントです。

2. 複数ソースでの検証:

   • 一つの情報源だけでなく、複数の異なる信頼できる情報源で同じ情報が確認できるか検証します。
   • 異なる情報源間で内容に矛盾がないかを確認します。

3. 一次情報の確認:

   • 元の論文、調査報告書、統計データ、公式発表など、可能な限り一次情報にあたります。
   • 二次情報（他社記事、SNSでのまとめなど）は、元の情報が正確に引用されているかを確認するためにのみ使用し、最終的な根拠としては一次情報を使用します。

4. 専門家や関係部署への確認:

   • 専門的な内容を含む情報については、社内外の専門家や関連部署（法務、研究開発、広報など）に内容の正確性を確認してもらいます。
   • 特に、特定の分野に関する記述や、法規制、技術的な内容を含む場合は必須です。

5. データの背景や解釈の確認:

   • 統計データや調査結果を使用する場合、そのデータの収集方法、対象、期間、限界などを確認し、誤った解釈に基づいた発信にならないよう注意します。
   • グラフやインフォグラフィックを作成する際も、元データとの整合性を確認します。

6. 古い情報でないかの確認:

   • 使用する情報が最新のものであるか、あるいは過去の情報である場合はその旨を明記し、現在の状況との関連性を確認します。法改正やサービス内容の変更など、時と共に正確性が失われる情報に注意が必要です。

7. 社内チェックリストの活用:

   • ファクトチェックのプロセスを標準化するため、確認すべき項目を盛り込んだ社内チェックリストを作成し、運用します。これにより、確認漏れを防ぎ、担当者間で一定の品質を保つことができます。

ファクトチェックを組織的に行うための体制構築

ファクトチェックを個人のスキルに依存させるのではなく、組織として継続的に行うためには、以下の体制構築が有効です。

• 担当部署・担当者の明確化: ファクトチェック責任者や担当部署を明確にし、チェック体制を構築します。広報部やマーケティング部内に専門チームを置く、または法務部などと連携するなどの方法が考えられます。
• 情報発信フローへの組み込み: 情報の発信承認プロセスの中に、必ずファクトチェックのステップを組み込みます。複数担当者によるクロスチェック体制も有効です。
• 情報ソースリストの作成・共有: 信頼できる情報ソースのリストを作成し、社内で共有します。参照すべき情報源の基準を明確にすることで、担当者ごとの判断のばらつきを抑えることができます。
• 従業員への教育: 全従業員を対象に、情報リテラシー教育やファクトチェックの重要性に関する研修を実施します。特にSNS等で情報発信する可能性のある従業員に対しては、個人アカウントからの情報発信における注意点も含めて周知徹底を図ります。
• 外部専門家との連携: 専門性の高い分野の情報発信を行う場合や、大規模なキャンペーン等でリスクが予想される場合は、外部の専門家（弁護士、学者、コンサルタントなど）に内容の監修やファクトチェックを依頼することも検討します。

まとめ

企業の情報発信における誤情報やフェイクニュースは、ブランドの信頼性を根幹から揺るがし、深刻な事態を招くリスクがあります。これを防ぐためには、個々の担当者の注意だけに頼るのではなく、組織としてファクトチェックの重要性を認識し、具体的な手順と体制を構築することが不可欠です。

情報ソースの確認、複数ソースでの検証、一次情報の確認、社内チェックリストの活用などを通じて、情報発信の正確性を常に担保する努力が求められます。また、従業員全体の情報リテラシー向上も、組織的なリスク対策として重要な要素です。

継続的なファクトチェックの実践は、企業の信頼性を高め、持続可能な情報発信活動を支える基盤となります。情報発信に携わるすべての担当者が、この作業の重要性を改めて認識し、日々の業務に取り組むことが期待されます。