企業SNSアカウントの「中の人」運用で気をつけたい情報発信リスクと具体的な対策
企業SNSアカウント運用における「中の人」リスクとは
企業の公式SNSアカウントは、ブランドイメージの構築や顧客とのエンゲージメント強化に不可欠なツールとなっています。しかし、その運用を特定の担当者、いわゆる「中の人」に任せる形態は、企業の情報発信において独特のリスクを伴います。「中の人」が企業の顔としてリアルタイムに近いコミュニケーションを行う一方で、その属人性や個人的な要素が予期せぬトラブルを引き起こす可能性があるためです。
本記事では、企業SNSアカウントの「中の人」運用に潜む具体的な情報発信リスクを明らかにし、それらを回避するための実践的な対策について解説します。
「中の人」運用に潜む具体的な情報発信リスク
企業SNSアカウントの「中の人」運用において考慮すべき主なリスクは以下の通りです。
- 属人化による知識・判断の偏り: 特定の担当者のみが運用に関わることで、情報発信の視点や判断基準が偏り、企業全体の方針やブランドイメージとの乖離が生じる可能性があります。また、担当者の知識や経験に依存するため、特定の分野や複雑な事象への対応が難しくなることも考えられます。
- 個人的な感情や意見の反映: 「中の人」が企業の公式アカウントであることを忘れ、個人的な感情や意見、政治的・社会的な思想などを投稿に反映させてしまうリスクです。これが企業の公式見解と誤解されたり、特定の層からの反発を招いたりして炎上につながる可能性があります。
- プライベートアカウントとの誤爆・混同: 企業アカウントでの投稿とプライベートアカウントでの投稿を間違えたり、企業アカウントで個人的な話題に触れてしまったりするリスクです。これにより、企業の信頼性が損なわれたり、担当者のプライバシーに関わる情報が漏洩したりする可能性があります。
- リアルタイムな反応による不用意な発言: SNSはリアルタイムでのコミュニケーションが魅力ですが、その場で反射的に返信や投稿を行ってしまうことで、十分に内容を吟味しないまま不適切または誤った情報を発信してしまうリスクがあります。特に、批判的な意見や問いかけに対して感情的に反応してしまうケースが考えられます。
- 疲労やストレスによる判断力低下: 継続的なSNS運用は担当者に大きな負担をかけることがあります。疲労やストレスが蓄積すると、注意力が散漫になり、リスクのある投稿を見落としたり、誤った判断を下したりする可能性が高まります。
- 引き継ぎ不足によるリスク: 担当者の異動や退職、休暇などに際し、十分な引き継ぎが行われない場合、アカウントのログイン情報や運用ルール、過去の経緯などが不明確になり、円滑な運用が滞るだけでなく、過去のトラブル対応や未解決の課題が放置されるリスクがあります。
- 過度な親近感演出による炎上リスク: 「中の人」の人柄を出すことで親近感を醸成する手法は有効ですが、過度にタメ口を使用したり、馴れ馴れしい言葉遣いをしたり、特定のユーザーと内輪ネタで盛り上がったりすることで、企業アカウントとしての品位を損ねたり、不公平感から他のユーザーの反感を買ったりするリスクがあります。
「中の人」運用におけるリスク回避のための具体的な対策
これらのリスクを管理し、安全な企業SNSアカウント運用を実現するためには、組織として以下の対策を講じることが重要です。
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明確な運用ガイドラインとルールの策定・周知:
- 企業アカウントの目的、ターゲット、ペルソナ(「中の人」としてどのような人物像でコミュニケーションをとるか)を明確に設定します。
- 投稿のトーン&マナー、使用可能な言葉遣い、絵文字や記号の使用ルールなどを具体的に定めます。
- 社名、製品・サービス名、競合、時事問題、政治、宗教、ジェンダーなど、言及する際に特に注意が必要なトピックやNG表現リストを作成します。
- 投稿承認フロー(誰が投稿内容をチェックし、承認するか)を明確に定めます。緊急時やリアルタイム性が求められる場合の簡易承認フローなども検討します。
- 就業時間外の対応範囲や、個人的な意見と公式見解の区別についてルールを定めます。
- これらのガイドラインやルールを文書化し、「中の人」担当者だけでなく、関連部署(広報、法務、マーケティング、カスタマーサポートなど)にも周知徹底します。
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複数人体制での運用とクロスチェック:
- 可能であれば、複数の担当者が交代制でアカウントを運用する体制を構築します。これにより、特定の担当者への負担集中を防ぎ、多様な視点を運用に反映させることができます。
- 投稿前に他の担当者や上長が内容をチェックするクロスチェック体制を導入します。これにより、誤字脱字だけでなく、不適切な表現やリスクの潜む内容を見落とす可能性を低減できます。
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担当者のリテラシー向上研修の実施:
- SNSの基本的な操作方法だけでなく、情報リテラシー、ネット炎上のメカニズム、著作権・肖像権などの法規制、個人情報保護、企業のコンプライアンス規定などに関する研修を定期的に実施します。
- 過去の企業SNS炎上事例などを研究し、リスクを具体的にイメージできるよう教育します。
- 研修は「中の人」担当者だけでなく、SNS運用に関わる可能性のある全ての従業員に対して実施することが望ましいです。
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プライベートアカウントとの明確な分離と注意喚起:
- 企業アカウントで使用するデバイスやブラウザ、アカウント情報は、個人のものと明確に分離することを推奨または義務付けます。
- 担当者に対し、企業アカウントとプライベートアカウントでの誤爆リスクについて常に注意喚起を行います。
- 個人のSNSアカウントにおいても、企業従業員としての自覚を持ち、不用意な発言が企業の評価に影響を与える可能性があることを教育します(これは全従業員向けの情報リテラシー教育の一環でもあります)。
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投稿作成・承認プロセスの整備:
- 投稿内容の企画、文章作成、画像選定、承認、公開、効果測定といった一連のプロセスを標準化します。
- 投稿内容のチェックリストを作成し、ガイドライン遵守、情報正確性、リスクの有無などを客観的に確認できるようにします。
- 可能であれば、SNS運用ツールなどを活用し、承認プロセスをシステム化することも有効です。
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緊急時対応フローにおける役割の明確化:
- 炎上や緊急事態発生時における「中の人」の役割、連絡体制、発言の判断基準、情報収集方法などを、緊急時対応フローの中に具体的に組み込みます。
- 無許可での謝罪や原因説明など、事態を悪化させる可能性のある独断での発言を禁止し、対応は広報責任者や経営層の判断を仰ぐルールとします。
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モニタリング体制の構築:
- 自社アカウントへのコメントやメンションだけでなく、関連キーワードやハッシュタグ、競合アカウントなどのモニタリングを継続的に行います。
- 炎上の予兆を早期に検知し、迅速な対応につなげることが重要です。モニタリングツールの活用も検討します。
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担当者の負担軽減とメンタルヘルスケア:
- SNS運用担当者が過度なストレスや疲労を抱えないよう、適切な人員配置や業務分担を行います。
- ネガティブな反応や誹謗中傷に晒されることによる精神的な負担について理解を示し、相談しやすい環境やケア体制を整えることも、長期的なリスク管理には不可欠です。
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引き継ぎマニュアルの作成と実施:
- アカウントログイン情報、運用ツール、過去の投稿履歴、FAQ、よくある質問とその回答、対応履歴、緊急連絡先などを網羅した詳細な引き継ぎマニュアルを作成し、常に最新の状態に保ちます。
- 担当者変更時には、時間をかけた丁寧な引き継ぎ期間を設けることが重要です。
まとめ
企業SNSアカウントの「中の人」運用は、企業と顧客を繋ぐ重要な役割を担いますが、同時に属人化や個人的な要素がリスクとなる可能性があります。「中の人」個人のスキルや経験に依存するだけでなく、組織として明確なガイドラインを策定し、複数人でのチェック体制を構築し、担当者の教育や負担軽減に取り組むことが、情報発信リスクを回避し、企業の信頼性を守るために不可欠です。
継続的なリスク管理と体制強化を通じて、安全で効果的な企業SNS運用を目指していくことが重要です。