企業オウンドメディアの情報発信リスク:ブログ・コラムで注意すべき表現とコンテンツチェック
はじめに:なぜオウンドメディアの情報発信にリスクが潜むのか?
企業のオウンドメディア、特にブログやコラムは、企業理念の発信、ブランディング、顧客とのエンゲージメント強化、さらにはリード獲得といった多様な目的で活用されています。自社の判断で自由にコンテンツを作成・公開できるというメリットがある一方で、ここに情報発信リスクが潜んでいます。
プレスリリースや広告とは異なり、ブログやコラムはより柔軟な表現やカジュアルなトーンが許容されがちです。しかし、企業の公式な情報発信チャネルであることに変わりはなく、そのコンテンツは企業の信頼性やブランドイメージに直接影響を与えます。作成担当者の専門知識不足、確認体制の不備、表現のニュアンスの違いなどが、意図せぬ炎上やトラブルを引き起こす可能性があります。
本稿では、企業オウンドメディアに潜む主なリスクと、それを回避するための具体的な表現方法の注意点、そして効果的なコンテンツチェックのポイントについて解説します。
オウンドメディアに潜む主な情報発信リスク
企業ブログやコラムで注意すべき主な情報発信リスクは多岐にわたりますが、ここでは代表的なものを挙げます。
1. 情報の正確性・専門性に関するリスク
オウンドメディアで特定の分野(例:健康、医療、金融、法律、IT技術など)に関する情報を発信する際、情報の正確性や専門性が不足していると、読者に誤解を与えたり、誤った行動を誘発したりするリスクがあります。特に健康食品や化粧品、金融商品などに関する誇大な効果効能表示や断定的な表現は、景品表示法や薬機法といった法規制に抵触する可能性も否定できません。専門家でない担当者が記事を作成・監修なしに公開することは非常に危険です。
2. 表現方法に関するリスク
- 主観の混入と公式見解の混同: 個人の意見や体験談が企業の公式見解であるかのように受け取られる可能性があります。
- 特定の層への配慮不足: 差別的、攻撃的、または特定の文化や価値観を否定するような表現は、強い反発を招き炎上リスクを高めます。
- 誤解を招く比喩やレトリック: 意図とは異なる解釈を生む表現は、読者の混乱や不信感につながります。
- 断定的な表現: 事実に基づかない断定、将来の不確実な出来事に対する断定は、後に事実と異なった場合に信頼を失う原因となります。
- ステルスマーケティングと疑われる表現: 広告であることを隠して商品やサービスを推奨するような表現は、倫理的に問題があるだけでなく、法規制の対象となる可能性もあります。
- 体験談の扱い: 個人の感想や体験談を根拠として効果効能を示すような表現は、客観性や科学的根拠に欠け、誤認を招くリスクがあります。
3. コンテンツ形式・引用に関するリスク
画像、動画、図解、インフォグラフィックなどをコンテンツに含める場合、著作権や肖像権の侵害リスクが生じます。また、他社や外部の情報を引用する際には、出典の明記や引用ルールの遵守が必要です。統計データを使用する際は、データの信頼性、調査方法、収集時期などを明確にしないと、データの誤用や誤解を招く可能性があります。
4. 情報の陳腐化・更新不足によるリスク
一度公開した記事が古くなり、情報が現状と異なってしまうリスクです。法改正、技術のアップデート、市場状況の変化などにより、過去の記事が不正確になったり、かえって誤解を招いたりする可能性があります。古い情報が検索上位に表示され続けることも、リスクを拡大させます。
オウンドメディアのリスクを回避するための具体的な対策
これらのリスクを管理し、信頼性の高いオウンドメディアを運営するためには、以下の対策が有効です。
1. コンテンツ作成段階での注意点
- 情報の根拠・出典の明確化: 記事内で言及するデータ、事実、主張には必ず信頼できる根拠や出典を明記します。特に専門的な内容については、参照した文献や統計情報を具体的に示します。
- 専門家による監修・確認体制: 医療、法律、金融など専門性が求められる分野の記事は、必ず社内外の専門家や関連部署の担当者による監修・レビュープロセスを設けます。
- ターゲット読者のリテラシーに合わせた表現: 読者層が専門知識を持たない可能性も考慮し、平易な言葉遣いを心がけ、専門用語には適切な解説を加えます。
- 断定的な表現を避ける: 不確実な情報や将来予測については、「〜と考えられます」「〜の可能性があります」「〜と言われています」といった、可能性や限定を示す表現を使用します。効果効能についても、個人の感想や一般的な傾向を示す表現に留めます。
- 広告・プロモーションの明示: 記事が商品やサービスの紹介を主目的とする場合は、「PR」「広告」といった表示を分かりやすい位置に明確に記載します。
- 体験談と公式見解の区別: 個人の体験談や社内の意見を記事に含める場合は、それが特定の個人の見解であり、企業の公式見解や普遍的な事実ではないことを明確に示します。
2. 公開前のチェック体制・フロー構築
コンテンツの質とリスク管理の両面から、公開前のチェック体制を強化することが不可欠です。
- 複数人による校正・校閲: コンテンツ担当者だけでなく、広報部門、法務部門、関連事業部門など、複数の目を通すことでリスクを発見しやすくなります。特に専門的な内容や、法規制に関わる可能性のある内容は、必ず専門部署の確認を経るようにします。
- チェックリストの活用:
- 正確性: 事実、データ、統計情報は正確か?出典は明記されているか?
- 専門性: 専門家による監修は行われたか?根拠は明確か?
- 表現: 不適切、差別的、誤解を招く表現はないか?断定的な表現、過剰な比喩はないか?広告と誤認されないか?
- 権利侵害: 著作権、肖像権、商標権などを侵害していないか?引用ルールは守られているか?
- 倫理・社会性: 社会規範や倫理に反する内容はないか?特定の層への配慮は十分か?
- 社内連携: 関連部署や事業部との連携は十分か?
- 承認フローの標準化: 誰がチェックし、誰が最終承認を行うかを明確にしたフローを策定し、関係者全体に周知徹底します。
3. 公開後のモニタリングとメンテナンス
記事を公開して終わりではなく、公開後の運用管理も重要です。
- コメント欄・SNSでの反応モニタリング: 記事に対するコメントやSNSでの反応を定期的にモニタリングし、誤解が生じていないか、批判的な意見がないかを確認します。必要に応じて、丁寧な返信や記事の修正を検討します。
- 情報の定期的な更新: 法改正、製品仕様の変更、市場状況の変化などにより、記事内容が古くなった場合は、速やかに情報の更新を行います。情報の陳腐化を防ぐため、定期的に記事を見直し、必要に応じて加筆・修正や削除を行うルールを定めます。
- 古い記事の扱い: 古い記事が検索で上位表示され、誤った情報を提供するリスクがある場合は、記事を非公開にする、最新情報へのリンクを貼る、注意喚起の表示を加えるなどの対策を講じます。
まとめ:信頼されるオウンドメディア運用のために
企業オウンドメディアは、企業と社会をつなぐ重要なタッチポイントです。そのコンテンツ一つ一つが企業の信頼性を形作ります。今回解説したように、オウンドメディアには様々な情報発信リスクが潜んでいますが、情報の正確性・専門性の担保、表現への十分な配慮、そして多角的なチェック体制と公開後の継続的なメンテナンスによって、これらのリスクを管理することは可能です。
読者に価値ある情報を提供し、企業の信頼を高めるために、オウンドメディアのリスク管理体制を今一度見直し、実践的な対策を講じることを推奨いたします。