企業の緊急事態発生時における情報発信リスクと具体的な対策
企業の広報・マーケティング担当者の皆様にとって、平時の情報発信に加え、緊急事態発生時の対応は極めて重要な業務の一つです。自然災害、システム障害、製品の欠陥、従業員の不祥事など、様々な緊急事態が発生した際、企業の情報発信の成否が、その後の信頼性やレピュテーションに大きな影響を与えます。不用意な情報発信は、事態の悪化や二次的な炎上を招くリスクも伴います。
本記事では、企業の緊急事態発生時における情報発信に潜むリスクを解説し、それを回避するための具体的な準備と対応策についてご紹介します。
緊急事態発生時の情報発信に潜むリスク
緊急事態発生時には、平時とは比較にならないスピードと正確性が求められます。情報の混乱、不確かな憶測、あるいは不適切な表現などが原因で、以下のようなリスクが発生しやすくなります。
- 信頼性の低下: 誤った情報や不正確な状況説明を行うと、企業への信頼が失墜します。情報の隠蔽や遅延も同様に不信感を招きます。
- 事態の悪化: 憶測に基づいた発言や、無責任な態度を示すような情報発信は、関係者(顧客、取引先、行政、従業員など)の不安を煽り、混乱を拡大させる可能性があります。
- 炎上の発生: 不謹慎な表現、被害者への配慮を欠く発言、責任逃れに見える態度などは、世論の強い反発を招き、急速な炎上につながることがあります。
- 風評被害の拡大: 事実と異なる情報や根拠のない誹謗中傷がネット上で拡散し、企業のブランドイメージや事業活動に長期的な損害を与える可能性があります。
- 法的な問題: 不正確な情報、特に原因や責任に関する誤った説明は、その後の損害賠償や訴訟に発展するリスクを伴います。
事前準備:危機管理広報体制の構築
緊急事態発生時に迅速かつ適切に対応するためには、事前の準備が不可欠です。
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危機管理チームの設置:
- 緊急事態発生時に意思決定を行い、情報発信の方針を決定する専門チームを設置します。
- 経営層、広報、法務、関連部門の責任者などで構成されるのが一般的です。
- 各メンバーの役割と責任範囲を明確に定めておきます。
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想定シナリオと対応マニュアルの作成:
- 自社で起こりうる様々な緊急事態(自然災害、製品事故、情報漏洩、不祥事、風評被害など)を想定し、それぞれに対する初動対応、情報収集フロー、対外情報発信の手順などを具体的に記したマニュアルを作成します。
- 特に、誰が、いつ、どのような情報を、どのチャネルで発信するのかを明確にしておきます。
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情報発信の承認フローの明確化:
- 緊急時に誰が、どのような内容の情報発信を承認するのか、迅速な承認フローを事前に定めておきます。平時の承認フローとは異なる、より迅速な判断が可能な仕組みが必要です。
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連絡体制の整備:
- 危機管理チームメンバー、関連部門、外部の専門家(弁護士、コンサルタントなど)との緊急連絡網を整備し、いつでも迅速に連携が取れるようにしておきます。
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メディアリストの作成:
- コンタクトすべき主要メディア(テレビ、新聞、通信社、専門誌、オンラインメディアなど)のリストを作成し、連絡先を最新の状態に保ちます。
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シミュレーション訓練の実施:
- 作成したマニュアルに基づき、定期的に模擬訓練を実施します。想定シナリオに沿って、情報収集、意思決定、情報発信のリハーサルを行うことで、課題を洗い出し、対応力を向上させます。
緊急事態発生時の具体的な情報発信対応
緊急事態が発生した場合、以下の点を踏まえた情報発信が求められます。
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迅速な初動対応と情報収集:
- 事態発生を認知したら、直ちに危機管理チームを招集します。
- まずは社内で正確な事実確認を行います。憶測や未確認の情報で動かないことが重要です。
- 可能な範囲で、被害状況、原因、今後の見通しなどを迅速に把握します。
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初期メッセージの決定と公開:
- 事実確認が進んでいない段階でも、「現在、事態の確認・調査を進めております」といった、状況を把握しようとしている姿勢を示すメッセージを迅速に公開することが重要です。
- 被害に遭われた方々への心遣いや謝罪の言葉を含めることも検討します。
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正確性と透明性の確保:
- 発信する情報は、現時点で確認できている事実のみに基づきます。不確かな情報や憶測を断定的に発信することは絶対に避けてください。
- 事実が判明するにつれて、情報をアップデートし、透明性のある情報公開を心がけます。
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配慮ある表現:
- 被害者や関係者の心情に配慮し、誠実かつ丁寧な言葉遣いをします。
- 責任の所在が明確になっていない段階での断定的な発言や、事態を軽視するような表現は厳禁です。専門用語は避け、誰にでも理解できる平易な言葉で説明します。
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情報公開のタイミングとチャネル:
- 最初の情報公開は迅速に行いますが、その後の追加情報は、情報の正確性が確保され次第、適切なタイミングで公開します。
- 自社ウェブサイトの特設ページ、公式SNSアカウント、プレスリリースなど、複数のチャネルを効果的に活用します。緊急度や情報の内容に応じて最適なチャネルを選択します。特に、SNSは情報の拡散が速いため、初期段階での情報発信に適していますが、不確かな情報も拡散しやすい点に注意が必要です。
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質疑応答への準備:
- 記者会見や問い合わせ対応に備え、想定される質問とその回答を事前に準備します。
- 回答できない質問には、正直に「現時点ではお答えできる情報がありませんが、分かり次第お伝えします」と伝え、無責任な回答は避けます。
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継続的な情報提供と風評被害対策:
- 事態の進展に合わせて、定期的に情報提供を行います。沈黙は不信感を招きます。
- ネット上の憶測や誤った情報に対しては、必要に応じて正確な情報を提供し、風評被害の拡大を防ぐための対策を講じます。
まとめ
企業の緊急事態発生時における情報発信は、平時のそれとは異なり、企業の存続や信頼性に直結する極めてデリケートな対応が求められます。リスクを最小限に抑え、適切に事態を収拾するためには、日頃からの危機管理広報体制の構築と、想定されるシナリオに基づいた訓練が不可欠です。
正確で迅速、そして関係者への配慮を欠かさない誠実な情報発信こそが、緊急事態を乗り越え、企業への信頼を維持・回復するための鍵となります。本記事でご紹介した内容が、貴社の危機管理広報体制強化の一助となれば幸いです。