企業が他社・競合に言及する情報発信の注意点とリスク対策
企業が自社の製品やサービスをアピールする際、しばしば他社や競合製品との比較が行われます。適切に行われれば、顧客にとって有益な情報となり、自社の優位性を効果的に伝える手段となります。しかし、この「他社比較」を含む情報発信には、法的な問題や信頼失墜といった大きなリスクが潜んでいます。広報やマーケティング担当者としては、これらのリスクを十分に理解し、細心の注意を払って情報発信を行う必要があります。
企業が他社・競合に言及する情報発信に潜むリスク
他社や競合について言及する情報発信は、意図せずとも以下のようなリスクを引き起こす可能性があります。
-
景品表示法(不当表示)違反のリスク: 製品・サービスの品質、規格その他の内容について、事実に反して著しく優良であると誤認させる表示や、競合よりも著しく有利であると誤認させる表示(優良誤認、有利誤認)は、景品表示法で禁止されています。あいまいな根拠に基づく比較や、都合の良い部分だけを切り取った比較は、この不当表示に該当する可能性があります。
-
不正競争防止法違反のリスク: 競合他社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為は、不正競争防止法によって禁止されています(信用毀損行為)。悪意をもって競合の製品やサービスを貶めるような虚偽の情報発信は、これに該当し得るリスクがあります。
-
名誉毀損・信用毀損のリスク: 特定の企業や製品に対する事実に基づかない批判や誹謗中傷は、名誉毀損や信用毀損にあたる可能性があります。法的な責任追及だけでなく、企業の信頼性を著しく損なうことにつながります。
-
信頼失墜・炎上のリスク: 法的な問題に至らなかったとしても、消費者が不誠実、不正確、悪意があると受け取れるような他社比較は、企業のブランドイメージを損ない、炎上を引き起こす原因となります。「マナーが悪い」「卑怯だ」といったネガティブな印象は、長期的な顧客離れにつながりかねません。
リスク回避のための具体的な注意点と対策
これらのリスクを回避し、他社・競合に言及する情報発信を安全かつ効果的に行うためには、以下の点に注意し、対策を講じる必要があります。
-
事実に基づいた正確な情報提供: 他社比較を行う際は、必ず客観的な事実や信頼できるデータ(公的な調査結果、専門機関のレポート、公正な比較試験など)に基づいている必要があります。あいまいな表現や主観的な評価のみで比較することは避けてください。比較の根拠は明確に示し、情報源を記載することが望ましいです。
-
比較条件の明確化と公平性: 比較する製品やサービスの仕様、価格、期間などの条件を明確に定義し、公平な立場で比較してください。自社に都合の良い特定の側面だけを強調したり、競合製品の不利な点だけをあげつらったりするような、恣意的な比較は避けるべきです。
-
法規制の正確な理解と遵守: 特に景品表示法と不正競争防止法に関する知識は不可欠です。これらの法律がどのような行為を禁止しているのかを正確に理解し、自社の情報発信が抵触しないかを常に確認してください。必要に応じて、法務部門や外部の専門家(弁護士など)に相談することも検討してください。
-
誤解を招かない表現の選択: 絶対的な優位性を示すような断定的な表現(例:「No.1」「最高」など)を用いる場合は、その根拠を明確にし、適切な条件(調査期間、調査対象、調査機関など)を付記する必要があります。消費者が誤解する可能性のあるあいまいな表現は避け、平易で分かりやすい言葉で説明することを心がけてください。
-
過度な批判や誹謗中傷の禁止: 他社や競合を一方的に非難したり、根拠なく誹謗中傷したりする表現は絶対に使用しないでください。比較はあくまで事実に基づき、自社の強みを客観的に伝えるために行うべきです。競合への敬意を欠く姿勢は、結果として自社の評価を下げることにつながります。
-
社内チェック体制の強化: 他社・競合に言及するコンテンツについては、公開前に法務部門や複数の担当者による厳重なチェックを行う体制を構築してください。表現の正確性、根拠の妥当性、法規制への適合性などを多角的に確認することで、リスクの見落としを防ぐことができます。
まとめ
企業の情報発信において他社・競合に言及することは、正しく行えば有効なマーケティング手法となり得ますが、同時に多くのリスクを伴います。景品表示法や不正競争防止法といった法的なリスク、さらには企業の信頼性を損なうリスクを回避するためには、常に「正確性」「公平性」「根拠の明確さ」を意識することが重要です。
情報発信に関わる全ての担当者がこれらの注意点を共有し、厳格なチェック体制の下でコンテンツを作成・公開することで、安全かつ効果的な他社比較を実現し、企業の信頼性を守ることができます。