リアルタイムの情報発信リスク:企業ライブ配信・ウェビナーで炎上を防ぐ対策
企業の広報・マーケティング活動において、ライブ配信やウェビナーを活用するケースが増えています。リアルタイムでの情報提供は、視聴者とのインタラクティブなコミュニケーションを可能にし、エンゲージメントを高める効果が期待できます。しかし、その「リアルタイム性」こそが、従来のオフラインイベントや録画コンテンツにはない、特有の情報発信リスクを生む要因となります。
本記事では、企業のライブ配信・ウェビナーに潜む情報発信リスクを整理し、炎上やトラブルを未然に防ぎ、万が一発生した場合にも適切に対応するための具体的な対策について解説します。
ライブ配信・ウェビナーに潜む主な情報発信リスク
ライブ配信・ウェビナーは、その性質上、予期せぬ出来事や発言が即座に拡散されるリスクを伴います。具体的なリスクとしては、以下のような点が挙げられます。
- 出演者の不用意な発言: 準備不足や緊張、場の雰囲気によって、予定外の発言や誤解を招く表現、他者への配慮に欠ける発言などが出てしまう可能性があります。
- 技術的なトラブル: 音声や映像の乱れ、配信停止、通信切断などが起こると、視聴者の離脱だけでなく、運営体制への不信感につながる可能性があります。
- 想定外の映り込み・音: 配信場所の背景に不適切なものが映り込んだり、関係ない人の声や物音が入ったりするなど、プライバシー侵害や企業イメージを損なう可能性があります。
- 参加者からの不適切コメント・質問: チャット機能などを開放している場合、誹謗中傷、わいせつな表現、広告、無関係なコメントなどが投稿され、配信の妨げになったり他の参加者が不快に感じたりする可能性があります。
- 誤情報の拡散: 事実と異なる情報や古い情報を発信してしまい、それがリアルタイムで共有・拡散される可能性があります。
- 法規制への抵触: 景品表示法や薬機法など、キャンペーンや製品説明に関わる特定の規制に違反する表現を、確認なしに発言してしまう可能性があります。
これらのリスクは、企業の信用失墜、炎上、ブランドイメージの低下に直結するため、事前の対策と発生時の対応が不可欠です。
ライブ配信・ウェビナーのリスク対策:企画・準備段階
リスクの多くは、事前の周到な準備によって低減できます。
1. 企画内容とリスクの洗い出し
- コンテンツチェック: 配信内容に不適切、誤解を招く表現がないか、ターゲット層に配慮した内容になっているかを複数名でチェックします。
- 関連法規の確認: キャンペーン実施や製品・サービス紹介を含む場合、景品表示法、薬機法などの関連法規に抵触する表現がないか、リーガルチェックを含めて確認します。
- 目的と視聴者の設定: 誰に何を伝えるかを明確にし、その視聴者層にとって不快になりうる表現やテーマがないか検討します。
2. 出演者の選定と準備
- 出演者のリテラシー確認: 出演者が企業のスタンスや情報発信におけるリスクを理解しているかを確認します。必要に応じて、企業の情報発信ルールやSNSガイドラインを共有し、研修を行います。
- 詳細な打ち合わせとリハーサル: 配信内容、発言して良い範囲・避けるべき話題、トラブル発生時の対応などを事前に詳細に打ち合わせ、可能であれば通しリハーサルを実施します。
- 想定問答集の作成: 想定される質問やコメントに対する回答を事前に準備し、出演者間で共有します。特に答えにくい質問への対応方針を決めておきます。
3. 技術環境と配信環境の準備
- 使用ツールの選定と習熟: 安定した配信ツールを選定し、操作方法、設定(特にコメント管理機能、ミュート機能など)を事前に十分に確認・習熟しておきます。
- 通信環境の確保: 安定した有線LAN接続を推奨します。複数の回線を用意するなど、バックアップ体制も検討します。
- 機材の準備と予備: マイク、カメラ、照明などの機材を事前にテストし、予備機材を用意しておくと安心です。
- 配信場所の確認: 背景に企業イメージを損なうものやプライバシーに関わるものが映り込まないか確認します。第三者の写り込みがない場所を選定します。生活音や外部の音が入らない静かな環境を確保します。
4. 告知内容の確認
- 誤情報・誇大表現のチェック: 配信内容と告知に齟齬がないか、誤情報や過度な期待を抱かせる表現がないか確認します。
- 参加方法・ルールの明記: 参加方法、チャット利用時のルール(誹謗中傷禁止など)を明確に記載します。
ライブ配信・ウェビナーのリスク対策:配信中と配信後
事前の準備に加え、配信中および配信後の対応計画も重要です。
1. 配信中のリスク対応体制
- リアルタイムでの監視体制: 配信画面、チャット欄、使用ツールの状況などをリアルタイムで監視する担当者を置きます。複数名で役割分担(技術担当、コメント担当、内容担当など)することを推奨します。
- コメント・質問への対応:
- 不適切なコメントは発見次第、迅速に非表示または削除します。ツールによっては、特定のキーワードを自動でフィルタリングする機能もあります。
- 質問は事前に準備した回答や、打ち合わせで決めた方針に基づいて対応します。事実に基づかない質問や攻撃的な質問には、冷静かつ丁寧に回答するか、取り上げない判断をします。
- チャットが荒れるような場合は、一時的にチャット機能を閉じる判断も必要です。
- 技術トラブル発生時の対応:
- 軽微なトラブルであれば、出演者が冷静にフォローしつつ進行します。
- 音声が途切れる、映像が停止するなど進行が困難な場合は、一度配信を中断し、復旧の目途をアナウンスするか、中止の判断を下します。事前に代替コンテンツや緊急連絡手段を用意しておくとスムーズです。
- 出演者の不適切発言への対応: 万が一、出演者が問題発言をした場合は、監視担当者が速やかにチャットや音声で注意喚起を行うか、一時的にミュートするなどの対応を検討します。配信が終了した後、速やかに訂正やお詫びのアナウンスを行います。
2. 緊急時の連絡・対応フロー
- 緊急連絡網の整備: 配信中にトラブルが発生した場合に、誰に、どのような手段で連絡するか、緊急連絡網と伝達フローを事前に定めておきます。
- トラブルレベルに応じた対応: 技術トラブル、出演者の問題発言、炎上兆候など、トラブルの性質や深刻度に応じた対応マニュアルを作成しておきます。
- 広報・法務部門との連携: 重大なトラブルや炎上リスクが発生した場合、速やかに広報部門や法務部門と連携し、対外的な声明や対応方針を決定できる体制を整えます。
3. 配信後の対応
- アーカイブ公開の判断と編集: 配信中に問題がなかったか最終確認し、必要に応じて不適切だった部分を編集した上でアーカイブを公開します。問題が大きかった場合は、アーカイブ公開を見送る判断も必要です。
- 参加者からの指摘への対応: 配信後に参加者から誤情報の指摘や不適切な発言への指摘があった場合、真摯に受け止め、事実確認を行い、必要に応じて訂正やお詫びのアナウンスを行います。
- 振り返りと改善: 配信後に、良かった点だけでなく、リスクにつながりそうだった点や発生したトラブルについてチーム内で振り返りを行い、次回の配信に活かします。
まとめ
ライブ配信やウェビナーは、企業の情報発信において非常に有効な手段ですが、リアルタイムだからこその予測不能なリスクが常に存在します。これらのリスクを回避し、安全かつ効果的な配信を行うためには、事前の徹底した準備と、配信中のリアルタイム監視、そしてトラブル発生時の迅速かつ適切な対応が不可欠です。
本記事で解説したリスクと対策を参考に、貴社のライブ配信・ウェビナーにおける情報発信リスク管理体制を構築・強化していただければ幸いです。重要なのは、「もしかしたら起こるかもしれない」というリスクを常に想定し、冷静に対応できる準備をしておくことです。